NFLヨーロッパ廃止について思うこと
ちょっと1週間ほど、日記を書けなかったのですが、
「NFLインターナショナル・デヴェロップメント・プラクティス・スクワッド」の発表は、
きっと今週あるだろうと、そのあたりのニュースはチェックしていたんですよね。
・・・まさか、NFLヨーロッパ廃止のニュースが流れてくるとは、思いもよりませんでした。
いやぁ、「来シーズンは、こうしよう」とか「来シーズンは、ああしよう」とか、
いろいろ書いてましたが、その「来シーズン」がなくなってしまった、という・・・。
「今やれることは、すぐにやりなさい」という教訓ということで、1つ。
まあ、それはともかく。
なぜ廃止になったか、ということで、
リーグの発表や、いくつかの報道がありますが、
そのあたりについて思うこと(穿った見方)を書き記しておきます。
まず、キーワードは「赤字」と「国際戦略の見直し」であることは間違いないでしょう。
ただ、赤字なのは、元々分かっていたことですし、
「赤字」だから「国際戦略の見直し」をした・・・というふうにつなげるのは、
少々、正確性に欠けるように思います。
ちなみに、「年間3000万ドルの赤字だった」とも言われていますが、
「3000万ドル」というのが、どれほどの額かと言いますと、
http://d.hatena.ne.jp/Kiyota/20060806#p2 (「2005年のサラリー」の記事)
タンパベイ・バッカニアーズのDEシメオン・ライスと、
当時オークランド・レイダーズのCBチャールズ・ウッドソンと、
グリーンベイ・パッカーズのQBブレット・ファーヴの、
3人の「年俸」を合わせた額ですね。
小さな額ではないですが、NFLが揺らぐほどの額でもありません。
もう1つ指標を示しておきますと、
昨年、アメリカ国内のテレビ放映権の更新がありましたが、
それ以前の放映権収入が「年平均約22億ドル」だったのに対し、
昨年からは「年平均約31億ドル」となっています。
「赤字がキツいから廃止」というには、体力は十分すぎるほどあるわけです。
ところで、先ほども書きましたように、赤字なのは元々分かっていたことなのですが、
では、なぜ赤字なのに、これまでずっと続けてきたのかと言えば、
それは、「将来黒字になると見込んでいた」からでしょう。
ここで、そもそもの「NFLヨーロッパの目的」を見直しておきたいと思います。
これは、大きく3つありました。
- アメリカンフットボールの海外普及
- 海外選手の発掘
- ルーキー選手の育成
日本においては、2番目が最も注目されていたところですが、
そもそも、なんでNFLは海外選手を発掘したいかと言えば、
その選手が出身国で注目を集めることによる「アメフトの普及促進」が目的なわけですから、
1番目と2番目は、まとめてしまっても良いのかもしれません。
で、なんで普及させたいのかと言えば、マーケットの拡大が目的であり、
その国から収益を得たいからに他なりません。
「収益」というと、パッと思いつくのは、
入場料収入や関連グッズ販売などですが、
やはり1番大きいのは、テレビ放映権料でしょう。
このあたりは、MLB(メジャーリーグ)に日本人選手がいることにより、
日本のテレビ局が放映権をバシバシ買っているあたりからも、
「海外選手の発掘」が「テレビ放映権料による収益増大」につながることが、
想像できるところかと思います。
で、まあ、海外選手をどんどん発掘していきたかったわけですが。
これが、上手くいかなかったんですね。
発掘してきても、NFLで通用しなかった。
なんで通用しなかったのかといえば、
アメフトは常に会話が必須のスポーツなので、英語がしゃべれないと難しい、
・・・という理由も、あるにはあると思いますが、
それよりも、1番の理由は、「アメフトが普及していないから」ではないでしょうか。
どの国にでも、スポーツに秀でた人というのは存在すると思いますが、
その人がどのスポーツをやるのか、というと、
その国で最も普及しているスポーツである可能性が最も高く、
普及度が下がるにつれ、選択される可能性も下がっていく・・・という構図に、
必然的になるものです。(相当大雑把な話ではありますけども)
子供の頃に慣れ親しみ、憧れを持ったスポーツで活躍したいと、
誰しも思うものでしょうからね。
だから、アメフトの普及していない国の選手を集めても、
「当たり」の確率が著しく低かった、というわけです。
誤解の無いように追記しておきますが、
その「当たり」のレベルは、半端ではなく高いものです。
だって、アメリカではアメフトの普及率が高いのですから、
アメリカの「スポーツに秀でた人」がアメフトを選択する可能性は高いわけで、
そんな人たちと渡り合えて、初めて「当たり」なんですから。
前述の「英語力」も含めて、ハードルは極めて高いです。
MLBは、日本人選手の発掘に成功していますが、
なんで成功したのかといえば、それは「既に日本には野球が普及していたから」、
という側面が大きいと言ってよいでしょう。
で、そうなると、「海外選手を発掘」することによって「アメフトを普及」させたいのに、
「アメフトが普及」していないと「海外選手を発掘」できない、
・・・という、もう、卵が先なんだか鶏が先なんだか、という状況に。
多分、そうは言っても、世界は広いし、先に選手を発掘できるだろう、
というのが、当初の目論見だったのだとは思いますが、
15年もやって芳しい結果が出ず。
そして、今後出てくる可能性はあるのか、というあたりを検討して、
「しばらくは無理だろう」という結論に落ち着いたのではないでしょうか。
となると。
「海外選手の発掘」が「テレビ放映権料による収益増大」につながり、
今は赤字でも「将来黒字になると見込んでいた」のが、
「しばらくは無理だろう」ということになったわけで。
これが、結局、直接の廃止の理由になるんでしょうね。
「国際戦略の見直し」は、当然、そのあたりを見据えてのこととなり、
発掘よりも普及を優先させる方向に動くのだと思います。
ただ、今後の目玉となる「海外でのレギュラーシーズンゲーム開催」や、
従来から行われているフラッグフットボールの普及などだけでは、
やや不十分とも思われるところ。
どんな「新戦略」を見せてくるのか、楽しみにしたいです。
海外からのテレピ放映権収入を増大させるより先に、
もっともっと露出を増やしていかなければならないのでしょうから、
個人的には、「ネットによる全試合無料放映」なんかを期待したいのですが・・・。
(あ、もちろん、アメリカ国外のみ、ということですよ)
まあ、既に番組を売っているテレビ局との関係もあるので、難しいとは思いますけどね。
でも、それくらい大盤振る舞いしてもいいんじゃないかなぁ。
そうそう、「NFLヨーロッパの目的」の最後の1つについても、ちょっとだけ。
NFLは下部組織を持っていないため、ルーキー育成のためのリーグは貴重、
・・・という話は、よく聞きますが、
これも、実際のところ、あんまり上手くいっていなかったように思います。
アリゾナ・カーディナルズのQBカート・ウォーナーだとか、
カロライナ・パンサーズのQBジェイク・デロームだとか、
インディアナポリス・コルツのKアダム・ヴィナティエリだとか、
そんなあたりが「成功例」として出てきますが、
NFLヨーロッパに挑戦せずに活躍している選手の方が圧倒的に多い、というのも事実。
僕がNFLヨーロッパを見始めたのは昨シーズンからでしかありませんが、
NFLヨーロッパで活躍した選手の名前が、NFLではあまり聞こえてこず、
それくらいのレベル差があるんだなぁ、と感じていたりもしました。
選手の能力を見極めるために、全く役に立っていなかったとは思わないんですけどね。
現に、ここ数日、NFLヨーロッパに挑戦していたフリーエージェント選手が、
何人も契約を結んでいたりしますし。
(ちなみに、フランクフルト・ギャラクシーのWRアーロン・ホサックも、
昨日、ニューオリンズ・セインツと契約しました)
ただ、如何せん、「費用対効果」が低すぎる、ということでしょう。
こちらの目的では、アリーナフットボールリーグやカナディアンフットボールリーグと、
今後は連携を深めていくことになるのかもしれませんね。
最後に。
NFLヨーロッパの廃止によって、海外選手を発掘する仕組みである、
「IPD」(International Player Development)も大幅に見直され、
日本人選手がNFLに挑戦する機会は(当面は)減っていくと考えらます。
そういう意味では、WRノリアキ・キノシタは、
運良く「最後の機会」を手に入れた、とも言えるわけで。
よくよく考えると、
「NFLインターナショナル・デヴェロップメント・プラクティス・スクワッド」は、
選ばれると「1年間のチーム帯同」が保証されますが、試合には出場できないので、
本当に今すぐNFLで活躍できる選手には、そぐわない制度とも言えます。
僕は、キノシタのリターナーとしての能力は、NFLで通用すると思っています。
今シーズン、NFLの試合でキノシタの活躍する姿が見られますように。
頑張れ!