長引く、新人選手の契約交渉



今年ドラフトで指名された選手の契約が、
なかなか進んでいないようです。


特に、上位指名選手はさっぱりで、1巡指名選手に至っては、
32人全員が、まだ契約していないような状況だとか。


これは、出来る限り「良い条件」で契約するために、
選手の代理人とチーム側とが、闘っているためでして、
当然、選手側としては、出来る限り長期契約で高い年俸をもらいたいでしょうし、
チーム側としては、出来る限り抑えたいものでしょう。


将来のスター候補生に対してチーム側が出し渋るのは、
とにもかくにもサラリーキャップ制度があるためで、
いくら資金が潤沢にあろうとも、ほいほいと払うわけにはいかないんですよね。
だからこそ、「金持ちチームが選手をかき集める」なんてことがなくて、
非常にリーグ全体が面白いものになっているのですから。


しかし、選手側が「良い条件」を望むのは、当然の権利とはいえ、
まだ入団前の新人にとって、長期的に見て、果たして「有利」に働くのかな、
と疑問に思うことがあります。


当然、このまま契約がまとまらないと、
そろそろ始まるトレーニングキャンプに間に合わず、
練習に参加しないことになってしまいます。


契約がまとまってなくても、参加する選手もいますが、
「こちらの要望どおり契約してくれなきゃ、練習に参加しないぞ」という、
チーム側への一種の「脅し」の意味もあったりするんですよね。


いくらなんでも、シーズン開幕までそのままではないですから、
そのうち、大幅に遅れてチームに合流することになるのですが、
当然、チームで練習する機会は減ります。


アメフトは、「準備のスポーツ」と言われることがあり、
どれだけ事前に準備して練習しておけるかが、
勝利のためのキーポイントとなりますので、
プロになり立てで、しかも練習量が足りない選手を、
試合に出せるわけがありません。


ベテラン選手なら、まだ昨年までの「経験」があるわけですが、
新人選手は、チームの基本戦術すらままならない可能性も、
あるわけですからね。


で、開幕は控えでスタートする、というパターンに。


昨年、このパターンになってしまった1人に、
サンディエゴ・チャージャーズのQBフィリップ・リバーズがいます。


チャージャーズとしては、前年のエースQBドリュー・ブリーズに、
かなり不満を持っていましたし、
トレードなどがあったにせよ、1巡上位で取ったクォーターバックなのですから、
開幕から先発を任せたい気持ちもあったのでした。


しかしながら、練習量が足りなかったので、
開幕は「とりあえず」控えでスタート。
すると、あれよあれよとブリーズが大活躍を見せて、
リバーズの出番は、結局、なくなってしまったのでした。


チャージャーズは、このオフ、フリーエージェントとなるブリーズを、
フランチャイズ指定して1年契約を結びました。
もともと、リバーズが「将来のエース」であることに違いはないので、
昨年、ある程度リバーズが経験を積んでいたら、
多少不安はあっても、ブリーズは放出していたことでしょう。


そうなっていれば、今年は、ブリーズがエースQBだったわけです。
そう、ニューヨーク・ジャイアンツのQBイーライ・マニングのように。


あくまで1年契約ですので、
来年にはエースの座が回ってくる可能性もありますが、
今年のブリーズの活躍次第では、何が起こるか、全くわかりません。


結局のところ、こういった事態を招いたのは、
全ては、最初の契約問題のもつれだった、と言えるのではないでしょうか。


選手側は、ワシントン・レッドスキンズRBクリントン・ポーティスの例を、
頭に浮かべているのかもしれません。
ポーティスは、デンバー・ブロンコスにドラフト指名されて入団したのですが、
当初は、非常に安い年俸だったようです。


ところが、デビューから2年連続して、シーズン1500ヤードを記録するなど、
リーグでもトップクラスの成績を残すようになりますと、
次第に、「なんでこんなに活躍しているのに、こんなに安い年俸なんだ!」
ということになってきます。


結局、すったもんだがあった末に、
CBチャンプ・ベイリーとのトレードで、レッドスキンズに移籍してきたのでした。


教訓は、「妥協をすると、結局あとで苦労する」と。


あるいは、クリーブランド・ブラウンズTEケレン・ウィンズロウのことを、
思い浮かべるのかもしれません。


ウィンズロウは、昨年ブラウンズにドラフト1巡指名されると、
6年契約という長期契約を結びます。
ところが、昨年は、2試合出場したところで、
負傷により、残りのシーズンを全休することになってしまいました。


再起をかけた今年、だったのですが、
オフシーズン中にバイク事故を起こしてしまい、
また今年も、シーズン全休となってしまったのでした。


もし、これが、「活躍するまでは安い年俸で」というような契約だったとすると、
最低年俸にでもなってしまうところかもしれません。
あるいは、年俸が安ければ、解雇もしやすいので、
雇対象になってしまうところかもしれません。


教訓は、「長期高額契約を結んでおけば、もしものときの保険になる」と。


アメフトは、非常に怪我をしやすいスポーツですので、
怪我をするかもしれない、ということは、
常々考えておく必要はあるでしょう。(バイク事故は、問題外としても)
そのことは否定できません。


が、もう1度振り返ってみて、
練習を休んでまで「良い契約」を勝ち取ることは、
本当に選手にとって、有利なことなのでしょうか。


前述のポーティスにしたって、ポーティスの年俸が安かったからこそ、
ブロンコスオフェンスライン選手などにお金をかけることができ、
そのおかげで、ポーティスは大活躍できた、
とも言えるかもしれません。
(ポーティスの基本能力は疑いの無いものだとしても)


しかも、移籍先のレッドスキンズでは、
リーグ全体でも上から10位以内に入るような年俸をもらえたわけで、
結果として、「活躍できて、年俸が上がる」という、
非常にポジティブな形になっています。


新人選手の皆さん。
まずは練習に参加して、試合で活躍し、
大きな契約交渉は、その後にしませんか?


もちろん、NFLで活躍できる自信が無ければ、別なのですが・・・。