労使協定交渉に関する個人的Q&A
NFLの労使交渉のニュースが、一般紙のスポーツ記事にまで出るようになりました。
まあ、それだけ、揉めに揉めているということで。
いろいろと情報が錯綜していて、
僕自身もまだ完全に事態をまとめ切れているわけではないので、
Q&A形式で、ちょっとずつ、疑問点と感想などを書いていきたいと思います。
Q1:何が問題になっているのか。
A1:
「対立の構図」については、まずは2月4日の日記を参照で。
ポイントは2点で、「サラリーキャップ計算の基となる収入範囲の拡大」と、
「その収入範囲における選手給与の割合の上昇」だったわけですが、
どうやら、現時点で、前者については概ね合意が出来ている模様です。
記事を見ても、従来の「Defined Gross Revenues」=「DGR」ではなく、
(「DGR」は従来の計算の基になる「主要収入」のことです)
「Total Revenue」(総収入)という言葉が使用されているので、
豪華席などの収入も含めることに関しては、オーナー側も了承したようです。
では、現在の対立点は何か、というと、「その中に占める選手給与の割合」で。
2005年の規定は、「DGRの65.5%」でした。
当然、「収入範囲」が広がるので、パーセンテージが上がるということはありませんが、
オーナー側からの提案は「56.2%」であるのに対し、
選手会側が「60%」を主張し、この議論が平行線となっている、とのことです。
Q2:労使協定がまとまらないことで、どういう影響が出ているのか。
A2:
サラリーキャップ制度がなくなるかも、という「来年」の話は置いておいて、
まずは、今起こっている影響を見てみます。
「新労使協定」では、従来の労使協定と比べて、
「選手給与総額」が上昇することが見込まれます。
これは、「オーナー側の提案」が通った場合も「選手会側の提案」が通った場合も同様で。
そりゃ、額が下がるような協定は、どう考えても結ばれないでしょう。
そして、「選手給与総額」が上昇することは、すなわち、
「サラリーキャップ枠の拡大」につながります。
そして、今の労使協定は、来年まで有効ですが、
「新労使協定」が結ばれれば、恐らく、即座に発効します。
ということは、今年のサラリーキャップ額が変わってくる、ということに。
実は、多くのチームで、この「新しいサラリーキャップ枠」を目処として、
選手の確保などが行われておりました。
しかし、それが結ばれない、となると、
従来の労使協定の計算方法でサラリーキャップ枠計算が行われるため、
その枠をオーバーしてしまうことになったんですね。
そして、昨シーズン終了後からここまでの間、
選手給与をサラリーキャップ内に収める必要はなかったのですが、
収めなければならない期日というのが、フリーエージェント解禁日の前日、
つまり、今年は3月3日がフリーエージェント解禁日だったので、
3月2日がその期日でした。
それまでに「新労使協定」がまとまらなかったものですから、
対応のために、3月2日、大勢の選手が解雇されることになりました。
実は、「サラリーキャップ内に収めなければならない」といっても、
現時点で全チームが枠内に収まっているわけではなく、
大幅に超過しているチームもあったりします。
(1日超過するごとに、罰金などの罰則が設けられています)
そういうチームは、慌てて解雇してもしょうがないので、
今、労使協定がまとまるかどうかは、動きにあまり関係なかったのですが、
まあ、どちらにせよ、「枠」が小さくなるのであれば、
今後苦しむことに変わりはないですね。
ただし、その後、この「フリーエージェント解禁日」が、3日先延ばしにされました。
「解禁日」を過ぎてしまうと、サラリーキャップ枠が確定してしまう、
イコール、労使交渉の決裂が確定してしまう、ということで、
交渉期限が3日延ばされた、ということですね。
Q3:2006年のサラリーキャップ枠は、結局どうなったのか。
A3:
「新労使協定」が結ばれないことによって、2006年のサラリーキャップ枠は、
従来どおりの計算方法で求められることになりました。
その額は、9450万ドル。
昨シーズンが8550万ドルだったので、900万ドルの大幅上昇。
規定は変わっていないので、これは純粋に、収入の増加によるものです。
ただし、先ほども書きましたとおり、交渉期間が3日延長されましたので、
現時点では、この額は、まだ暫定的なものになります。
Q4:「新労使協定」が結ばれていれば、サラリーキャップ枠はどうなっていたか。
A4:
詳細は分からないのですが、これより1000万ドル以上は上昇するはず、
と言われています。
ただし、分からないのは、「どういう形で結ばれていたらなのか」ということ。
オーナー側の提案は「56.2%」、選手会側の要求は「60%」。
開きがありますので。
仮に「60%」が「1000万ドルの上昇」にあたるとすると、
「56.2%」だと「約300万ドルの上昇」になります。
仮に「56.2%」が「1000万ドルの上昇」にあたるとすると、
「60%」だと「約1700万ドルの上昇」になります。
「300万ドルの上昇」では如何にも少なく、各チームとしても、
それを見込んで選手を確保していた(そして解雇した)とは思えないので、
後者の「56.2%で計算した場合に1000万ドルの上昇」と考えるのが妥当でしょう。
となると、「オーナー側の提案が受け入れられた場合」の、
「新サラリーキャップ枠」は、約10450万ドル、
「選手会側の要求が受け入れられた場合」の「新サラリーキャップ枠」は、
約11150万ドル、ということになるかと思います。
Q5:選手会側の要求は妥当なのか。
A5:
非常に個人的な感想ですが。
ポール・タグリアブーコミッショナーも表現しているとおり、
「欲張りすぎ」という面があるのではないか、と思います。
一般の「賃金改定交渉」との1番の違いは、
「額」ではなく「割合」の交渉をしているところ、なんですよね。
従来の労使協定の計算でも、昨シーズンから今シーズンにかけて、
「1チームあたり900万ドルも」上昇しています。
オーナー側の提案を呑めば、「更に1000万ドルも」上昇します。
しかし、「それでは足りない」と言っているのが、
今の選手会側の姿勢なのではないでしょうか。
もちろん、「今までの額が少なすぎた」という主張なのでしょうが、
見方によっては「強欲」ととられても仕方がないのではないでしようか。
それに、実は、この交渉、
選手会側は「ふっかけるだけふっかけている」可能性があると思います。
というのも、交渉が決裂した場合、サラリーキャップ制度が無くなる可能性大なのですが、
これを「望むところ」と考える選手も多いはずです。
実は、交渉が決裂することも狙いの1つだった、
・・・というのは、穿った見方でしょうか?
Q6:オーナー側は、今回の事態をどう考えているのか。
A6:
まず、「オーナー側」と一口に言っても、状況は32者32様です。
その中でも、大まかに言えば、「裕福なオーナー」と「そうじゃないオーナー」に、
分かれるのではないかと思います。
先ほどのように、「選手会側は欲張りすぎ」というのが、
全オーナー共通の認識かとは思いますが、その上で、どう考えるか。
「裕福なオーナー」は、サラリーキャップ制度が無くなっても構いませんから、
「そんな選手会側の要求に応える必要は一切ない」と考えるでしょう。
「そうじゃないオーナー」は、サラリーキャップ制度が無くなると困りますから、
「なんとか選手会側の要求に歩み寄れないか」と考えるでしょう。
・・・という状況が、3月2日までの決裂と、
その後の3日間の交渉期間延長を生み出したのではないかと思います。
ちなみに、現在のこの「期間延長」は、
オーナーの一部から提案があったものです。
一見、「フリーエージェント解禁日の延期」は「悪い事態」のように思えますが、
1番の「悪い事態」は、「交渉決裂が確定してしまうこと」だったので、
この「延期」は、事態を好転させるための兆し、と見るべきでしょう。
そんなわけで、「労使交渉」と言いつつ、
「オーナー間交渉」になっているのが、現状ではないでしょうか。
Q7:最終的に交渉が決裂したら、結局どうなるか。
A7:
2007年をもって、サラリーキャップ制度が終了するでしょう。
それは、とても大きい事態ではありますが、
「それ以上の事態」は発生しないと考えます。
すなわち、「ストライキ」等、試合開催が危ぶまれる事態のことです。
途中でも書きましたが、「サラリーキャップ制度が無くなること」は、
選手にとって、悪い事態ではありません。
(もちろん、全面的に良い事態というわけでもありませんが)
ですので、「事態の改善を求めてストライキ」というようなことは発生せずに、
そのまま、「サラリーキャップ制度の終了」を迎えることになるでしょう。
Q8:では、結局、決裂するのか。
A8:
もちろん、今後どうなるかは分かりません。
分かりませんが、最終的には決裂しない、と考えます。
今回の事態で困っているのは、実は、(一部の)オーナー側です。
ですので、「オーナー間交渉」で、なんとか事態の収拾を図ってくるはずです。
選手会側も、最初からそうなることが分かっているので、
ずっと強気で押している、ということもあるように思います。
ただし、「その構図」を分かっていて、反発しているオーナーもいると思うので、
選手会側がこのまま「押しっぱなし」だと、
いくらオーナー間で話をつけようとしても、上手くいかないかもしれません。
・・・とか書くと、結局どっちだよ、という話ですが。
先ほど、「交渉が決裂してもストライキ等は起こらない」と書きましたが、
実は、心配な事態が1つあって、それは、
「これからずっと長期間にわたって交渉が決裂しないこと」で。
(つまり、ずっと「交渉中」になるということ)
そうなると、「フリーエージェント解禁」も、その後の日程も、
全て先延ばし先延ばしになってしまって、
結局、シーズン短縮などの事態が発生するのではないか、という懸念があります。
そうはなってもらいたくはないのですが・・・。
・・・と、以上、ざっと疑問点・感想などを並べてみました。
個人的には、サラリーキャップ制度は続いてもらいたいと思っているので、
なんとかまとまってもらいたいものです。